消費者が日常の消費生活において様々な契約をする上で、事業者との情報、知識、資力等の差異によって、不当に不利な契約を結ばされ、不利益を被ることを余儀なくされるといった問題を消費者問題といいます。
近年では、携帯電話やパソコンを介したインターネット上での契約締結が普及する反面、そのような場面での消費者被害も多数発生しているところです。また、いわゆる悪徳商法の手口も多様化し、今なお被害が絶えない状況です。
このような消費者問題については、事業者と消費者の間の上記格差を是正し、契約当事者間における均衡を実現することを目的として、各種の特別法が種々の法的ルールを定めており、これらの特別法上の規定の適用により解決が可能な場合も少なくありません。以下では、消費者契約法と特定商取引法(正式名称「特定商取引に関する法律」)を中心に、これらの法律が規定するルールの概要を説明します。
消費者と事業者との間における契約(消費者契約)に適用される法律で、両者の構造的な格差を前提として、消費者契約一般について、民事的規律を定める法律です。
消費者が契約の取消し、無効を主張できる場合について、民法の定める範囲を消費者に有利に拡大しています。
契約締結に際し、事業者が重要な事項について消費者に事実と異なることを告げ(※告知した内容が事実と異なることを事業者自身が認識している必要はありません)、消費者がこれを事実だと誤認した場合、消費者は契約を取り消すことができます。
契約締結に際し、事業者が将来における変動が不確実な事項について断定的な判断を告げ(Ex.先物取引における「必ず上がる」、パチンコ攻略情報の提供における「絶対勝てる」、土地分譲などにおける「道路開通により間違いなく地価が倍になる」等)、消費者がこれを確実なものであると誤認した場合、消費者は契約を取り消すことができます。
契約締結に際し、事業者が消費者に利益となる事だけを告げて、不利益となる事実を故意に告げず、消費者がその不利益な事実が存在しないものと誤信した場合、消費者は契約を取り消すことができます。
消費者が事業者に対して、住居や職場から退去するよう告げたのに事業者がその場から退去せず(訪問販売等の典型といえるでしょう)、これによって消費者が困惑して契約を締結した場合、消費者は契約を取り消すことができます。
消費者が事業者に対して、勧誘をされている場所から退去したい旨を告げたのに事業者がその場から退去をさせず(キャッチセールスの典型といえるでしょう)、これによって消費者が困惑して契約を締結した場合、消費者は契約を取り消すことができます。
事業者と消費者が締結した契約書に記載された契約条項のうち、以下に該当する条項については、消費者は無効を主張できます。
訪問販売など消費者トラブルを生じやすい特定の取引類型を対象に、トラブル防止のルールを定め、事業者による不公正な勧誘行為等を取り締まることにより、消費者取引の公正を確保しようとする法律です。
1. 訪問販売 | 自宅訪問による販売、キャッチセールス、アポイントメントセールス |
---|---|
2. 通信販売 | 新聞、雑誌、インターネット等で広告し、郵便、電話等の通信手段により申し込みを受ける販売((3)に該当するものを除く) |
3. 電話勧誘販売 | 電話で勧誘し、申し込みを受ける販売 |
4. 連鎖販売取引 | 個人を販売員として勧誘し、さらに次の販売員を勧誘させる形で、販売組織を連鎖的に拡大して行う商品・役務の販売(Ex.マルチ商法) |
5. 特定継続的役務提供 | 長期・継続的な役務の提供とこれに対する高額の対価を約する取引(Ex.エステサロン、語学教室、家庭教師、学習塾、結婚相手紹介サービス、パソコン教室) |
6. 業務提供勧誘販売取引 | 「仕事を提供するから収入が得られる」と勧誘し、仕事に必要であるとして、商品等を売って金銭負担をさせる取引 |
クーリングオフ | 申込み又は契約後に法定の書面を受け取ってから一定期間((1.3.5)は8日間、(4.6)は20日間、※(2)通信販売にはクーリングオフ規定はない。但し類似規定はあり。)、消費者は、冷静に再考して無条件で契約を解約できるとされています。 |
---|---|
意思表示の取消し | 不実告知、重要事項の故意的不告知等の結果、消費者が誤認して契約に至った時は、消費者は意思表示を取り消すことができるとされています。 |
訪問販売に関する過量販売契約の解除 | 訪問販売によって、消費者が「通常必要とされる分量を著しく超える」量の商品の購入契約を締結した場合、契約締結から1年間は申込みの撤回または契約の解除ができるとされています。 |
損害賠償額等の制限 | 消費者が契約を中途解約する際などに、事業者が消費者に対して請求できる損害賠償額等に上限が設定されています。 |
以上の他、割賦販売法の規定により、特定商取引法の適用のある取引(通信販売を除く)を個別信用購入あっせん(販売業者から商品等を購入する際に、販売業者と提携しているクレジット会社と立替払契約を結ぶこと)によって行った場合に、不実の告知、重要事実の故意的不告知により消費者が誤認に陥って契約を締結した場合には、クレジット契約も取り消すことができるとされています。