病気で就業が困難になった、会社の人員削減で退職を余儀なくされた、住宅ローンの返済が厳しい、キャッシングやショッピングの借入れが膨らんでしまったなど、借金に関する悩みは多種多様です。
このような悩みについて法的に借金を整理する方法としては、大きく分けて、
の4つがあります。
上記方法のいずれかを選択し手続を進めることで、現在の借金を整理し、今後の生活再建に向けて筋道を立てることができます。
借金を整理する方法について、冒頭では大きく4つの方法を紹介しましたが、多くの事案で選択されるのは次の2つですので、以下では、これらの2つの方法について詳しくお話しします。
1. 任意整理 | 貸金業者等の債権者と交渉をして、債務を減額したり、分割返済計画を緩和したりして、収入状況に応じた新たな返済の約定を締結します。場合によっては貸金業者から過払金を返してもらえることもあります。 |
---|---|
2. 自己破産申立 | 返済がもはや困難な状態に陥っている場合、返済を諦め、裁判所に破産の申立てをして、債務を帳消しにしてもらいます。 |
月々の収入額からして借金を返済していくこと自体が不可能と考えられる場合には、(2)の破産申立を、それ以外は(1)の任意整理を選択するというのが方針選択のポイントです。
このため、まずご相談者の収入と支出、職業、家族構成等の生活状況や、資産の有無、借入をした経緯等について詳しくお聞きします。その上で、債務整理のどの処理パターンがふさわしいのか、ご相談者と話合いながら決定します。
以下、それぞれの債務整理方法について概要を説明します。
任意整理とは、貸金業者等と交渉をして、債務を減額したり、分割返済計画を緩和したりして、収入状況に応じた新たな返済の約定を結ぶ手続です。
任意整理とは、貸金業者等と交渉をして、債務を減額したり、分割返済計画を緩和したりして、収入状況に応じた新たな返済の約定を結ぶ手続です。
まず、貸金業者等に「受任通知」を送り、貸金業者等から債務者との間の過去の取引履歴のすべてを開示してもらいます。
受任通知が貸金業者等に届くと、以後、債務者に対する直接の連絡、催促等がストップし、全て弁護士等が窓口となります。また、返済も一旦ストップになるので、債務者は厳しい取り立てに苦しむ生活から解放され、落ち着いた生活を取り戻すことができます。
債権者から取引履歴が開示されたら、次に「引き直し計算」をして、実際の債務額がいくらかを調べます。引き直し計算の結果、債務が減額になる場合もありますし、さらに進んで過払金が発生する場合もあります。債務が残る場合と過払金が発生する場合とで、その後の処理手順が異なります。
過払金が発生する可能性が高い場合 | 貸金業者等との間で法定利率を超える利率で6~7年以上の取引をしている場合、過払いとなっている可能性が高いと思われます。 |
---|---|
過払金請求の時効 | 最終取引日から10年を経過すると、時効により過払金の請求ができなくなってしまいますので注意が必要です。 |
引き直し計算の結果を踏まえ、まずは、貸金業者等と任意の交渉を行います。交渉の結果、条件が折り合えば和解をします。債務が残る場合と、過払金が発生する場合とによって、その後の処理手順が異なります。
引き直し計算によって算出された実際の残債務の額を前提に、貸金業者等と交渉を行い、従来の月額返済額を減額して完済の期限を延長してもらうなどして、無理のない返済計画で改めて合意をします。基本的に、3年(36カ月)から5年(60カ月)の分割弁済が可能になります。また、これまでの遅延損害金や経過利息、さらには将来利息を免除してもらい、借入元本のみの返済を行うことが可能な場合もあります。
引き直し計算によって算出された過払金の額を貸金業者に示し、まずは任意の返還を求めます。任意の交渉で折り合いがつかない場合、訴訟を提起して返還を求めることになります。
訴訟外交渉の実情 | 近年、過払金返還請求の増加と貸金業者等の財務状況の悪化等により、貸金業者等から算出額全額をすぐに返してもらえることはほとんど期待できないのが現状です。 このため、訴訟を起こして回収する手間、費用、時間を考え、算出額の何割か(7~8割程度)を返還してもらうことで和解することもあります。 過払金回収にあたっては、手続きに要する経済的負担や貸金業者の倒産のリスク等を踏まえた判断を要する場合があります。 |
---|
貸金業者等との交渉の結果、和解できなかった場合には、法的手続をとります。
分割返済案に納得してもらえなかった場合は、破産申立てに方針転換します。
貸金業者が最終的に提示した返還額や返還日に納得できない場合は、訴訟を起こし、判決をもらって回収します。
訴訟のメリットとしては、主張がすべて通れば、満額を回収できる可能性があることです。他方、訴訟のデメリットとしては、訴訟を起こすことに費用(弁護士費用、印紙代等)がかかるうえ、確定判決をもらうまでに時間がかかることが挙げられます。さらに、判決を取得したとしても、貸金業者等の資産の所在が不明である場合は強制執行に踏み切ることができませんので、判決で認められた額の全額の回収が不可能な場合があります。
返済がもはや不可能な状態に陥っている場合(支払不能)、裁判所に破産手続の開始と免責許可の申立てをして、免責の決定をもらうことを目指す手続です。免責の決定が得られると、租税債務等の一部の例外をのぞき、全ての債務について責任を免れます。
返済がもはや不可能であると判断される場合、また、任意整理の方針で上記Step3までやってみたものの和解が実現せず、任意整理の方針に行き詰ってしまったという場合、破産申立てを選択することとなります。
まず、全ての債権者に対して債務整理を開始する旨の受任通知を送り、債権者から債権届を出してもらいます。保証人となっているものも含め、債務を負担している可能性のあるものについては全て債権調査をします。また、過払いの可能性のある業者については、取引履歴の開示を受け、過払金債権が存在するのかどうか確認する必要があります。
債権の調査を進めるのと同時に、依頼者から生活状況、資産状況、多重債務に陥った経緯等について詳しく聴取して破産申立書を作成します。破産申立書に添付する必要のある書類(通帳の写し、給与明細書、賃貸借契約書等々)の準備は依頼者に行ってもらいます。また、破産申立てに至るまで、月ごとの家計表をつけてもらいます。
債権調査が終了し、申立書及び添付書類の準備が整ったら、裁判所に破産申立てをします。申立書の記載事項や申立てに際して提出することを要する書類は多岐にわたるため、受任から破産申立てに至るまではある程度の時間を要します。
申立書を提出すると、裁判所において申立書の内容がチェックされ、要件が整っていれば、破産手続開始決定が出されます。なお、破産申立後、裁判官による債務者審尋(裁判官が債務者から直接話を聞く手続)が開かれる場合には、裁判所に弁護士が同行し、補助します。
目ぼしい資産がない場合は、同時廃止という簡単な手続きが取られます。同時廃止手続きとなった場合、約2カ月後に免責許可が出され、これにより破産手続は終了となります。
他方、価値のある資産(土地、建物、株式等々)が存在する場合は、裁判所によって破産管財人が選任され、破産管財人により資産の換価と債権者への配当が行われます。管財事件となった場合は、予納金として少なくとも20万円を納める必要があります。
法律で、その事実がある場合は免責を許可することができないとされている事実(免責不許可事由)が存在する場合には、免責が許可されない場合があります。
具体的には、換価を免れようと財産を隠匿した場合、複数の債権者のうち一人の債権者だけを優遇する意図で弁済を行った場合(偏波弁済)、負債の原因が高価な贅沢品の購入やギャンブルによるものである場合などが免責不許可事由とされています。
もっとも、免責不許可事由が存在しても、場合によっては諸般の事情を考慮して、裁判所の裁量によって免責を許可してもらえることもあります。
いずれにせよ、免責不許可事由を形成しないよう十分な注意をすることが重要です。
目ぼしい資産があればその資産が換価されてしまうという点が挙げられますが、それ以外のデメリットはほとんどないと言ってよいでしょう。
選挙権に影響はありませんし、戸籍や住民票に記載されることもありません。「官報」という情報誌に名前が載りますが、一般の方で見ている人はほとんどいないと思われます。
ただ、債務整理の手続すべてに関してですが、信用情報機関に情報が登録される(いわゆるブラックリストに載る)ことによって、数年間は貸金業者等からお金を借りられなくなるという点は注意を要します。
手許にある財産は根こそぎとられるわけではなく、家財道具等の生活必需品や最低限の生活資金としての現金は、自由財産として手許に残してもらえます。
また、たとえば車であっても、年式が古く時価がほとんどない場合には、換価する価値がない以上、手許に残ることになります。
他方、土地建物や十分な時価を有する車などは、基本的に競売等によって換価され、手許に残りません。
主債務者が破産しても、その家族等が保証人になっていると、債権者は保証人に請求してきます。保証人は、そのような場合のための人的担保だからです。したがって、その場合には保証人におけるその後の対応も十分検討しておく必要があります。